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山口地方裁判所 昭和30年(行)10号 判決

山口県光市大字島田市下迫下二千三百二十八番地の二

原告

光製氷冷蔵有限会社

右代表者代表取締役

岸川善雄

右訴訟代理人弁護士

熊川定一

山口県光市

被告光税務署長

服部重義

右指定代理人

米沢久雄

笠行文三郎

常本一三

田原広

加藤宏

美井富美夫

右当事者間の昭和三十年(行)第十号法人税等取消請求事件について次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和二十九年三月五日付を以て原告の昭和二十八年四月一日から同年九月三十日に至る事業年度に於ける所得金額を百六十万二千六百円と査定し法人税六十七万三千九十円無申告加算税十六万八千二百五十円を賦課した課税処分はこれを取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、

請求の原因として、

(一)  原告は、製氷等を業とする会社である。

(二)  被告は、昭和二十九年三月五日、原告に対し、同二十八年四月一日から同年九月三十日に至る事業年度に於ける法人税法にいわゆる所得金額を百六十万二千六百円(八十七円以下切拾)と査定し、法人税六十七万三千九十円、無申告加算税十六万八千二百五十円を賦課する処分をなした。右課税処分の算定基礎は、原告が、昭和二十八年五月十三日、原告所有の光市大字島田手原第二千三百二十八番の二所在の製氷工場及び附属の製氷設備一式(以下本件工場と略称する。)を訴外光飲料株式会社に代金百八十万円で売却した結果、同年四月一日から同年九月三十日に至る事業年度に於いて、右売却代金より本件工場の帳簿価格十九万七千三百十二円三十五銭を控除して百六十万二千六百円(八十七円以下切捨)の所得を得たと謂うにある。

(三)  しかし、本件工場は右売却当時訴外日本水産興業株式会社の所有に属し、同会社によつて訴外光飲料株式会社に売却されたものであつて、原告は、当時本件工場の所有者でもなく右売却には無関係の地位にあり、右事業年度に於いて何等の所得を得ていないのである。即ち、本件工場はもと原告の所有に属していたが、原告は昭和二十二年六月三十日頃、本件工場を訴外田中由喜平に売却し、同人は、同年八月五日頃、これを、当時新日本漁業株式会社の名の下に設立準備中であつた日本水産興業株式会社の発起人総代吉田浩也に売却した。右吉田浩也は右設立中の会社の発起人総代として本件工場を買い受けたのであるから、同二十三年六月二十五日右会社が日本水産興業株式会社の名で設立されると同時に、本件工場は同会社の資産に属することとなつたが、同会社は昭和二十七年五月二十七日解散し、同二十八年五月十三日、清算事務のため本件工場を代金百八十万円で光飲料株式会社に売却したのである。本件工場の建物は従来家屋台帳上は原告の所有として記載され、未登記のままであつたので、同二十八年五月十三日付で始めて原告名義に保存登記された上、同月十八日付で光飲料株式会社に対し、同月十三日付の原告と光飲料株式会社間の売買を原因とする所有権移転登記が行なわれているが、これは、本件工場の買主たる田中由喜平及び日本水産興業株式会社発起人総代吉田浩也がいずれも本件工場を解体して移設する目的であつたため所有権移転の登記を行うに至らず、光飲料株式会社が本件工場を買受けるに及んで原告より光飲料株式会社に対し所有権移転の中間省略登記が行なわれたに過ぎない。されば、被告の行なつた本件課税処分は、原告に法人税法のいう所得がないのに百六十万二千六百円の所得を生じたものと査定し、これを基礎に法人税及び無申告加算税を賦課した点に於いて違法な処分であるから取消されるべきものである。

(四)  そこで原告は昭和二十九年五月二日光税務署長に対し本件課税処分について異議申立をなしたところ、右異議申立を棄却されたので、同年七月二十六日広島国税局長に対し再審査申立をなしたが、同三十年四月二十一日右再審査申立も棄却されたので、本件課税処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、

立証として、甲第一号証の一ないし五、甲第二号証の一、二、三甲第三号証の一、二、甲第四号証、甲第五号証の一、二、三、甲第六号証の一、二、甲七号証、甲第八号証の一、二、甲第九号証甲第十号証の一、二甲第十一号証の一、二、甲第十二ないし第十七号証、甲第十八号証の一、二を提出し、証人江口熊四郎(一、二回)同佐伯嘉市、同田中由喜平、同樋口禎一、同成松謙造、同坂井新太郎同山本輝夫、同吉原直一の各証言及び原告代表者岸川善雄本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として、原告主張事実中その(一)(二)(四)の事実及びその(三)の中本件工業建物について登記簿上原告主張のとおりの登記が行なわれていることはこれを認めるが、その余の点は否認する。被告は、原告が昭和二十八年五月十三日、原告所有に係る本件工場を訴外光飲料株式会社に代金百八十万円で売却したことを知り、右売却により原告が昭和二十八年四月一日より同年九月三十日に至る事業年度に於いて、右代金額より、同二十三年三月十一日現在に於ける本件工場の帳簿価格十九万七千三百十二円三十五銭(右帳簿価格を原告の取得価格と認め)を控除した残額百六十万二千六百八十七円(円未満切捨)の所得を生じたものと査定し、これに基き右事業年度に於ける原告の法人税額を六十七万三千九十円、無申告加算税額を十六万八千二百五十円と決定して課税したものであるから、被告の行なつた右課税処分に違法はないと述べ、

立証として、乙第一ないし第九号証、乙第十号証の一、二、三を提出し、証人山本一郎、同磯村幸雄、同緒方斉、同柳原国蔵の各証言を援用し、甲第九号証、甲第十号証の一、二、甲第十一号証の一、二、甲第十三ないし第十六号証、甲第十八号証の一、二の成立を認め、甲第一号証の一ないし五、甲第二号証の一、二、三、甲第三号証の一、二、甲第四号証、甲第五号証の二、三甲第六号証の二、甲第八号証の二、甲第十二号証、甲第十七号証の成立は不知、甲第五号証の一、甲第六号証の一、甲第七号証、甲第八号証の一中郵便官署の日付印の成立は認めるがその余の部分の成立は不知と述べた。

理由

原告主張事実中その(一)(二)(四)の事実及び、原告主張事実(三)の中、本件工場建物について、登記簿上、昭和二十八年五月十三日、原告名義に保存登記が行なわれた上、同月十八日付で光飲料株式会社に対し同月十三日付の原告と光飲料株式会社間の売買を原因とする所有権移転登記が行なわれたことはいずれも当事者間に争がない。而して成立に争のない甲第十八号証の二、乙第一ないし第四号証、及び証人山本一郎の証言によれば、光飲料株式会社は昭和二十八年五月十三日、本件工場を代金百八十万円で買い受けたものであるが、その際作成された売買契約書(乙第一号証)には売主として原告の名が明記され、代金の領収証(乙第三号証)も原告の代表取締役岸川善雄名義で作成され、且、本件工場建物につき原告のため抵当権設定登記がなされていることが明かである。さすれば、反証がない限り光飲料株式会社に本件工場を売却した売主は原告であると推定しなければならない。そこで、以下、右推定を覆えすに足る反証があるか否かにつき検討する。

原告は、本件工場は昭和二十二年六月三十日頃、原告より田中由喜平に売却され、次いで、同年八月五日頃、同人より当時新日本漁業株式会社の名の下に設立準備中であつた日本水産興業株式会社の発起人総代吉田浩也に売却され、同二十三年六月二十五日、日本水産興業株式会社設立と同時に同会社の所有に帰したものであると主張する。証人江口熊四郎の証言により真正に成立したと認める甲第四号証、証人山本輝夫の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一、二、三、証人吉原直一の証言により真正に成立したと認める甲第六号証の一、二及び甲第七号証、成立に争のない甲第九号証甲第十号証の一、二、甲第十一号証の二、甲第十六号証、証人江口熊四郎(一、二回)同佐伯嘉市、同樋口禎一、同山本輝夫、同吉原直一、同成松操、同坂井新太郎の各証言及び原告代表者岸川善雄本人尋問の結果を綜合すれば、昭和二十二年六月頃、訴外吉田浩也その他唐津の有志等が中心となり、新に会社を設立し、光市所在の本件工場を長崎県東松浦郡名護屋村へ移設し、冷蔵及び冷凍事業を始める計画を立て、吉田浩也が発起人総代となり、同二十三年六月二十五日、日本水産興業株式会社を設立したが、資金難等のため結局工場移設は実現せず、事業開始に至らないまま、佐賀地方裁判所唐津支部の解散命令により同二十七年五月二十七日解散し清算手続に入つたこと、本件工場と同会社の関係につき、同二十八年年九月頃、本件工場の敷地の所有者山本輝夫に対し同会社名義で同二十三年三月分から同二十九年四月分までの敷地の地代が支払われていること、同二十六年四月頃、光市居住の訴外吉原直一に対し同会社名義の本件工場管理依頼書が発せられ、同人は同二十八年五月頃まで本件工場の管理に当つていたこと、同会社の株主の一人である訴外坂井新太郎が自ら保管を託されていた本件工場附属の製氷缶を独断で他に売却した事件につき同二十六年九月三日、同会社常務取締役江口熊四郎名儀で告訴が行なわれていること、同二十八年五月十七日の同会社臨時株主総会で承認を得た財産目録、貸借対照表には同会社の資産として本件工場が掲げられていること及び、同会社の代表取締役の地位に在つた吉田浩也が記帳していた帳簿(会社の正規の帳簿でなく同人が便宜上雑記帳を用いて作成していたもの)には本件工場は同会社の資産として記載されていたことを認めるに足り、以上の事実を綜合すれば、会社設立後同会社に於いてはは本件工場を自己の資産に属するものとして扱つていた事実のあることが窺われ、会社設立後本件工場が実際は、同会社の所有に移つていたのでないかとの疑なきを得ない。

そこで、本件工場の所有権が原告の手を離れ同会社に帰属する原因となる事実があるかにつき審究すると証人田中由喜平の証言により真正に成立したと認める甲第一号証の一ないし五、甲第二号証の一、二、三、甲第三証の一、二、証人坂井新太郎の証言により真正に成立したと認めと甲第八号証の一、二、証人田中由喜平、同江口熊四郎(一回)同堤謙造、同樋口禎一、同成松操、同坂井新太郎の各証言及び原告代表者岸川善雄本人尋問の結果を綜合すれば、本件工場買収の名の下に、昭和二十年六月三十日、原告を売主、訴外田中由喜平を買主とする代金二百十六万一千八百五十円の売買及び同年八月五日、右田中を売主、日本水産興業株式会社設立発起人総代吉田浩也を買主とする代金三百八十万円の売買が行なわれた事実を認めることができる。ところで、右各売買については契約書もなく、成立に争のない乙第五、六号証によれば、右各売買の行なわれた時期を含む原告の第十期の損益計算書、貸借対照表には、本件工場は原告の資産として掲げられ、その前期に比較して資産の移動のあつた事実を窺うことができず、又、成立に争のない乙第十号証の一、二、三によれば、本件工場に対する昭和二十五年度分なしい二十八年度分の固定資産税は原告に対して課税され、その内昭和二十六年度分は原告名義に納税が完了していることが明かである。而して、本件工場は、光飲料株式会社が買い受ける間際に至つて始めて原告名義に保存登記の上、光飲料株式会社に移転登記され、同会社に対する売却に際して作成された売買契約書にも売主として原告の名が記載されていることは前示のとおりである。更に成立に争のない甲第十四号証、乙第八号証、証人江口熊四郎の証言(一回)及び原告代表者岸川善雄本人尋問の結果によれば、吉田浩也は田中由喜平との前記売買の約半年後に当時原告の代表取締役であつた升井五郎左衛門より原告に対する同人の出資の譲渡を受け原告及び日本水産興業株式会社双方の代表取締役を兼任し、吉田浩也辞任後は岸川善雄が双方の代表取締役を兼任していることを認めるに足り、原告の資産としては本件工場が唯一のものであつたことも乙第五、六号証により明かである。以上の事実を綜合して考えれば原告田中由喜平間、田中由喜平吉田浩也間に行なわれた本件工場買収なるものは本件工場その物の売買ではなく、原告の支配権譲渡の実質を有する出資の譲渡に過ぎなかつたのでないかとの疑問の余地があり、原告代表取締役岸川善雄の提起した広島国税局長宛法人税に対する再調査願も右見解の下に棄却されたことは成立に争のない甲第十四号証及び乙第八号証に明かである。

そこでこの点につき更に検討を加えると、原告田中由喜平間、田中由喜平吉田浩也間の右各売買が登記簿上に記載されず、光飲料株式会社に対する本件工場の売却も原告名義で行なわれている理由につき、証人江口熊四郎は、その証言に於いて、日本水産興業株式会社が本件工場を光飲料株式会社に売却するに際し原告名儀を用いたのは本件工場が原告の所有名義になつていたからである旨を述べ、証人田中由喜平は、その証言に於いて、原告から本件工場を買い受けるに際し建物の所有権移転登記を行なわなかつたのは工場を名護屋に移設する予定であつたからである旨を述べ、証人佐伯嘉市は、その証言に於いて、原告から日本水産興業株式会社に本件工場の所有権移転登記を経由していないのは工場買収と同時に直ちにでも移設する気持があつたためである旨を述べている。而して、甲第四号証、第八号証の一、二、成立に争のない甲第十号証の一、証人江口熊四郎(一回)、同堤謙造、同坂井新太郎の各証言によれば、日本水産興業株式会社設立発起人吉田浩也等は、当初、本件工場を名護屋在住の出資者坂井新太郎の所有地へ移設して事業を始める計画であつたが、資金の関係で右移設が実現しなかつたためその後も再三他地に候補地を求めて本件工場の移設又は売却を計画して結局事業開始に至らなかつたことを認めることができるから工場移設を予定して所有権移転登記を後日に延ばし、貸借対照表財産目録にも工場譲渡の事実を記載せず、その結果本件工場に対する固定資産税も原告名義で課税され、光飲料株式会社に対する売却抵当権設定も原告名義でなされる運びとなつた事情は必ずしも諒解し得られないものではなく、日本水産興業株式会社と原告の双方の代表取締役が同一人により兼任されている事情もあり右の如き状態にも格別不安はなかつたものと考えられる。されば、右江口、田中佐伯の各証言は一概にこれを排斥し得ないものがあり、前記の如き諸事情を以て光飲料株式会社に売却されるまで本件工場の所有権が原告に属していたものと断ずるのは早計といわねばならない。吉田浩也が升井五郎左衛門より同人の原告に対する出資の無償譲渡を受けた点についても、吉田浩也が田中申基平と本件工場買収名下に取引をしたことが認められる以上、若し、右取引が原告の支配権譲渡の実質を有する出資の譲渡を意味するものであれば、工場買収の後更に重ねて吉田が升井から出資の無償譲渡を受ける必要も意味のない筈であり、吉田田中間の取引が本件工場その物を目的とするものであつたからこそ、後日升井との間に出資の無償譲渡の行なわれる余地があつたのであると解し得ないこともなく同無償譲渡の行なわれた事情を明かにするに足る証拠もないので、単に右無償譲渡が行なわれたとの事実があるからといつて、原告田中由喜平間及び田中由喜平吉田浩也間の取引が本件工場そのものの売買ではなく、原告の出資の売買であつたと断ずることはできない。日本水産興業株式会社の代表取締役たる吉田浩也及び岸川善雄がそれぞれ原告の代表取締役をも兼任していた事実も、右吉田浩也が同会社設立前升井五郎左衛門より出資の無償譲渡を受けていた事情がある以上、必ずしも前記各取引が工場の売買でなく出資の売買であつたことを裏付けるものとは云えない。

而して、甲第一号証の一ないし四に「光製氷工場買収内金」、甲第一号証の五に「製氷設備前受金として」、甲第二号証の三に「製氷設備代金として」と各記載されていること前示の如く、日本水産興業株式会社名義で、本件工場敷地の地代が支払われ、本件工場の管理依頼がなされていること、坂井新太郎の製氷缶売却事件につき同会社常務取締役名義で告訴がなされていること及び昭和二十八年の臨時株主総会で承認を得た同会社の財産目鉄、貸借対照表には本件工場が同会社の資産として掲げられていることの諸事実に併せて甲第八号証の一、二、証人田中由喜平、同江口熊四郎(一、二回)、同堤謙造、同堤口禎一、同成松操の各証言を綜合すれば、原告から田中由喜平に売却され、更に同人から日本水産興業株式会社設立発起人総代吉田浩也に売却された目的物は、原告に対する出資ではなく本件工場その物であつたと認めるのが事態の真相に合致するものと解するの外ない。なお成立に争のない乙第九号証によれば、本件課税処分に対し原告代表取締役岸川善雄名義で申立てられた異議申立書には、原告に利益がないことを主張するのみで本件工場の所有者及び売主が日本水産興業株式会社である旨の主張は記載されていないことが明かであるが、光飲料株式会社との取引が書類上は原告名義で行なわれていた事実を考えれば、一応、所有者及び売主の点には触れず他の点についての異議事由のみ主張したとしても、その一事を以て本件工場の所有者及び売主が原告であつたことの証左とすることはできない。その他右認定を覆えし、本件工場の所有者び売主が原告であつたことを認めるに足る措信すべき証拠はない。

次に、原告は本件工場は日本水産興業株式会社設立と同時に当然同会社の所有に帰した旨主張する。工場買い受けのような、会社の将来の営業に必要な財産の譲受は発起人の権限に属しないから会社設立と同時に本件工場が当然同会社の所有に帰したとは云えない。しかし、前示の如く、会社設立後本件工場が同会社の資産として扱われていた事実から推して、会社設立後吉田浩也より同会社に対し本件工場の所有権が移転されたことを推定することができるから、光飲料株式会社との取引当時本件工場の所有権は日本水産興業株式会社に属していたものと認めるのが相当である。而して、証人江口熊四郎の証言(一回)及び原告代表者岸川善雄本人尋問の結果によれば、光飲料株式会社に対する本件工場売却の事務については、日本水産興業株式会社清算人熊川定一の依頼を受けて同会社取締役江口熊四郎が売却の交渉に当り売買契約を締結し、代金百八十万円中即時払の分九十万円は清算人熊川定一に交付されていることが明かである。然らば、売買契約書及び登記簿上に於いては売主として原告の名が記載されていても、真実の売主は日本水産興業株式会社であつて、原告ではなく、原告が本件工場の右売買による収益をあげたことを認めることはできない。法人税法はその第七条の三にいわゆる実質課税の原則を採ることを明示しており右規定の趣旨から推して、取引の目的物の真実の所有者ないし売主が何人であるを問わず、専ら公簿、契約書等の書類上形式的に表示された名義人のみを標準としてこれに課税する表見課税の方法を採ることは許されないと解すべきである。而して原告が昭和二十八年四月一日から同年九月三十日に至る事業年度に於いて他に収益を得た事実は認めることができない。されば、原告の右事業年度に於ける法人税法上の所得金額を百六十万二千六百円と査定し、法人税六十七万三千九十円、無申告加算税十六万八千二百五十円を賦課した本件課税処分は違法な処分として取消されるべきものである。

よつて、原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒川四海 裁判官 五十部一夫 裁判官 高橋正之)

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